「のぞいてみよう源氏物語の世界展」ギャラリートーク”知らなくても楽しめる源氏物語”9月8日㊐から開催中
令和6年9月1日㊐~10月14日㊊火曜休館で「のぞいてみよう源氏物語の世界」を開催しています。
源氏物語が書かれた平安時代当時から現代に至るまでを概観出来る大変充実した展覧会です。
展示品は伊賀上野図書館、伊賀市文化財課、さらに個人蔵と当館所蔵の貴重な資料・重文や国宝のレプリカなど源氏物語と紫式部そして作品の背景に関わる資料の主なものを集め展示しています。
本展覧会のギャラリートーク”知らなくても楽しめる源氏物語”も9月8日開催されました。
30名以上の方が参加され源氏物語に関わるさまざまな話を楽しんでいただきました。
源氏物語は原作を読んでいなくとも現代語訳がたくさん出ています。さらに漫画化された作品、ダイジェスト版、漫画のダイジェスト版まで有り簡単に「源氏物語」を知ることが出来ます。そして、概要だけでも知っていれば楽しめるさまざまな資料・作品・グッズが昔からたくさん作られています。
紫式部の出てくる最も良く知られているグッズは百人一首でしょう。百人一首にはNHKの大河ドラマ「光る君へ」でおなじみのキャラクターがたくさん出てきます。この中で大弐三位(だいにのさんみ)は聞き覚えがないかもしれませんが紫式部の娘です。彼女は多くの貴族と浮き名を流し、自身も従三位典侍(ないしのすけ)と言う高い階位と官職につきますので賢子(かたいこ)という実名が残っています。
「紫式部日記」やそれらの紫式部の言い伝えや・記録をまとめた「百人一首一夜話」には歌の訳、寡住みの話・藤原道長が式部に戯れかける話・「日本紀の局」とあだなされた話・中宮彰子へ白氏文集進講・紫式部が漢文に優れていたため父が「この子が男であったら」と嘆いた話(挿し絵)等が載っています。これらを読むと(本人も書いている通り)紫式部と道長は大変近しく昔から男女の仲を噂されていた事が分かります。
「源氏物語」は江戸時代になると木版本が普及し庶民にも広がります。しかし、名高い物語とは言え江戸庶民にとっても何百年も前の言葉で書かれた庶民とはほど遠い超大作で理解するのは難しかったようです。そこでいくつもの注釈本、江戸時代版現代語訳、ダイジェスト版、江戸時代に置き換えた源氏物語の浮世絵などいくつも出されます。その中で「偽紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」は物語を江戸の一つ前の室町時代に置き換え、話も足利将軍の妾腹の子・光氏が、将軍位を狙う山名宗全を抑えるため、光源氏的な好色遍歴を装いながら、足利氏の重宝類を奪い返すという歌舞伎調パロディー時代劇になっています。
語り口も五七調で冒頭こんな感じです
「花の都の室町に、花を飾りし一構(ひとかま)へ、花の御所とて時めきつ、
朝日の昇る勢ひに、文字も縁ある東山、義正公の北の方、
富徽の前(とよしのまえ)と聞えしは、九国四国に隠れなき、
大内為満(ためみつ)が娘にて、すでに去る年御産の紐、
安らかに解き給ひ、男子儲け給ひしかば、
昔にいや増し人々の、尊敬大方ならざりけり。」
平安時代(江戸時代まで)教養とされた漢籍の中でも白居易の漢詩は特に人気がありました。「紫式部日記」にも紫式部が彰子にこっそり「新楽府」を講義する話が出てきます。また白居易の「長恨歌」は源氏物語に盛んに引用され冒頭の「桐壷」帖は桐壺帝の桐壺更衣への寵愛を玄宗・楊貴妃になぞらえて書かれています。「長恨歌」の最初と最後はこんな感じで連綿と玄宗・楊貴妃の悲恋が綴られています。「桐壷」帖を読んだ一条天皇は自分がなじられていると感じながらもちょっと嬉しかったかもしれません。
漢皇(かんこう)色を重んじて傾国(けいこく)を思ふ
御宇(ぎょう)多年求むれども得ず
楊家(ようか)に女(むすめ)有り初めて長成す
養はれて深閨(しんけい)に在り人未いまだ識らず
天生の麗質自(みずから)棄て難く
一朝(いっちょう)選ばれて君王の側(かたわら)に在り
眸(ひとみ)を迴(めぐ)らし一笑すれば百媚(ひゃくび)生じ
六宮(ろっきゅう)の粉黛(ふんたい)顔色無し中略
夜半(やはん)人無く私語の時
天に在りては願はくは比翼(ひよく)の鳥となり
地に在りては願はくは連理の枝と為らんと
天長く地久しきも時有りて尽くるも
此の恨みは綿綿として絶ゆるとき無からん
平安当時の宮中の様子や装束・衣装は「年中行事絵巻」「餓鬼草紙」等の当時に近い時代の絵巻物や、「源氏男女装束抄」「装束図式」といった研究書からうかがえます。展示の最後には平安装束を忠実に再現した衣装を展示しています(民俗衣装文化普及協会協力)。
十二単は宮中に出仕する女官の正装で16kgありますが紫式部は毎日着ていたようです。
冠直衣は男子の略装で正式には束帯や衣冠を着なければならない所を天皇の許しを得て参内出来ました。ですからむしろ名誉な服装です。大河ドラマで一条天皇が普段来ているのが此れに近いものです。