展示紹介・穐月明「地蔵と紙風船」

穐月明「地蔵と紙風船」
穐月明「地蔵と紙風船」

この絵は今展示中の「地蔵と紙風船」ですが、どう見えるでしょう?
お地蔵さんがとても可愛らしく、色墨でサラッと描かれた紙風船が実に見事です。優しいお地蔵さんが子供のために紙風船を差し出しているように見るかもしれません。

しかし絵の漢文を読むと。

一切有為法 如夢幻泡影
如露亦如電 應作如是観

読み方は

一切の有為法(ういのほう)は夢、幻、泡、影の如く、露の如くまた電(いなずま)の如し。応(まさ)に是の如きの観(かん)を作(さく)すべし

意味は

この世の全ては常に移ろう無常のものであるのに、真のものだと錯覚しているから、執着する心が起こる。すべては夢幻のような物だという観念に立つことで煩悩から逃れられる。

大体こんなところでしょう。
この様に絵に添える詩文を「賛」と言います。自分で賛を書いているので自画自賛です。穐月明は賛に添って絵を描いていたようですのでこの賛は絵の意味を表していると思われます。
するとこの「紙風船」は「夢、幻、泡、影の如き無常なこの世の全ての物」を表していて、地蔵菩薩は
「どんなに大きく立派でも中身は空っぽの紙風船のように儚いものだ」
と言って紙風船を差し出している事がわかります。
しかし
「だからこそ紙風船のように美しく愛おしい」
と微笑んでいるようにも思えます。

茶室の楓の露

この賛の詩文は金剛般若波羅蜜経に記載されています。金剛般若波羅蜜経は空の思想を説いた般若経典の一つです。三蔵法師(玄奘三蔵)もインドから持ち帰っています。