伊賀焼と掛け軸
伝承・創造伊賀焼展 伊賀焼『今昔』は5人の伊賀焼作家の展覧会です。当館が2015年に開館してから2019年までは私設美術館として穐月明の作品が中心でしたが、今回は伊賀市立のミュージアムとして陶芸作家の作品と古陶です。
文化都市協会の主催となって初めて可能となった展示とも言えます。
現代の先鋭的な伊賀焼をライティングも整えられ美しく見せています。背景に掛ける穐月明作品が合うか不安だったのですが、マッチするだけではなく互いに意味を補完しあっているように見えるのは予想外でした。
掛け軸と焼き物のコラボという視点で展示を紹介します。床の間の設えだと思って御覧ください。
小島憲二氏の「石景壺」は蓮の葉に包まれた様に見えます。だからでしょうか穐月明「蓮池」がそこから生えたように互いに共鳴しとても良い風情が出ました。写真ではうまく伝えられないのが残念です。
小島憲二氏の「扁壺」は単体で見ればどっしりと堂々とした壺ですが、手を合わせた勢至菩薩「野の仏」の前に置かれるとご本尊の阿弥陀如来坐像のように見えてきます。
偶然ですが新歓嗣氏の丸い器に入った亀裂と、軸の丸い州浜の中に描かれた池と島が同じ景色になりました。会場では亀裂の中も良く見てください。
此れも誂えたように獅子香炉に獅子舞です。この獅子舞は伊賀に残る古い型の舞で,天狗などがでてきて楽しい雰囲気がこの獅子香炉とぴったりです。
工藤二郎氏の魚は滝を登っているのでしょうか、それとも大きく口を開けて滝を飲んでいるのでしょうか。穐月明にしては華やかな金と赤の紅葉がゴツゴツとした魚の鱗と響き合っています。赤目の滝ではないでしょうか。
恒岡光興氏の美しい辰砂の壺は背景の景色の夕焼けた風景でしょうか。器の赤は水銀ではなく銅で発色するそうです。
谷本景さんの作品とコラボは有りませんが、土そのもののようなオブジェや岩のようなビードロ釉の器は力強く斬新です。最もモダンな作風は最も伊賀焼の精神を継いでおられるのかもしれません。
古伊賀とされる水指で、口がみな欠けています。蓋は後補で作ったものです。背景は木津川から見た伊賀上野城、丘の上に小さく見えます。古の伊賀に思いを馳せました。
穐月明以外の作家の展示をすることで今後の展示の幅と質を上げるきっかけになってくれると思います。
とても暑い夏ですが此処は少し涼しい風が吹きます。
でも楓の先が早くも紅葉しかかっているのが心配です。