伊賀市 ミュージアム青山讃頌舎 秋の企画展「のぞいてみよう源氏物語の世界」は終了しました

たくさんのご来館有り難う御座いました。今まで余り取り上げられなかった平安時代の面白さと江戸時代の出版の実力をつたえられた展覧会だったと思います。

令和6年9月1日㊐~10月14日㊊火曜休館

のぞいてみよう源氏物語の世界

紫式部によって著された『源氏物語』は、およそ千年の時空を超えて読み継がれ語り継がれ、各時代にわたってさまざまなかたちで享受されてきました。しかしながら現在の我々にとって『源氏物語』を理解するのはハードルが高いと感じる人も多いのではないでしょうか。本展覧会は、そんな『源氏物語』の世界を少しでも身近に感じていただくために企画しました。特別展示として当時の十二単などの装束を展示し平安の美を体感していただけます。

展示している十二単(じゅうにひとえ)と冠直衣(かんむりのうし)は民族衣装文化普及協会より貸していただいた、当時を忠実に再現した衣装です。
十二単は宮中に出仕する女官の正装で毎日此れを着て働いていたそうです。16kgありますが紫式部は毎日着ていたようです。
冠直衣は男子の略装で正式には束帯や衣冠を着なければならない所を天皇の許しを得て参内出来ました。ですからむしろ名誉な服装です。大河ドラマで一条天皇が普段来ているのが此れに近いものです。

  • 今回の展示内容は
  • 1、「源氏物語」がその後どの様に書き継がれ、解説書、ダイジェスト版、それぞれの時代の現代語訳、パロディー本、浮世絵や漫画、かるたや源氏香等のゲームやグッズといった今のサブカルチャーと同じような発展を遂げる様子。
  • 2、ドラマや小説に描かれる「源氏物語」と其の時代の根拠となった文献資料や其の複製。
  • 3、「源氏物語」が書かれる背景となった平安時代の宗教やかなや漢文などの文化、宮廷生活。
  • を紹介しています。

■ギャラリートーク「知らなくても楽しめる源氏物語」

展示を見ながらそれぞれのエピソードを紹介します。
【日 時】 9月8日㊐13:30~
【場 所】 伊賀市 ミュージアム青山讃頌舎
【解 説】 学芸員 穐月大介
*予約不要。参加は無料ですが入館料が必要です。

■ 記念講演会「 源氏物語がわかる平安和歌講座」

平安の和歌は言葉遊びやお約束、引用を駆使しています。源氏物語を理解するための和歌を読み解きます。
【日 時】 9月23日㊊ 14:00~
【場 所】 青山複合施設アオーネ
【講 師】 皇學館大学 助教 吉井 祥先生
【お問合せ】 青山ホール受付 ☎0595-52-1109
       *予約不要

■ 関連企画 ワークショップ「木の実を食べる」

阿保周辺で取れる木の実を調理してい頂きます。今年は薫製にも挑戦します。
【日 時】  10月13日㊐ 10:00~
      (ミュージアム受付集合)~14時頃終了
【定 員】 15名  参加費 1800円(食材費等) 
 ◎要予約【予約開始日】9/10(火)
【案 内】 穐月 大介(090 9860 6432)
持ち物 軍手、ナイフ、まな板、汚れても良い服
*詳細・お申し込みは「じゃらん遊び・体験」「いがぶら2024秋」又は☎090 9860 6432 穐月まで。


1、「源氏物語」の広がり

「源氏物語」は其の時代ごとの現代語訳が書かれるだけではなく漫画やグッズへ広がっていきます。

百人一首かるた(江戸時代 十九世紀)

百人一首には紫式部と同時代の人物もたくさん出てきます。その中の「大弐三位」は紫式部の娘で従三位にまで出世するので藤原賢子という本名が伝わっています(紫式部や清少納言はみな通称です)。

後ろの屏風には源氏絵が描かれています。源氏絵は絵を見ただけで源氏物語のどのシーンかが分かるようになっており、一つのジャンルになっています。
右上は赤子を抱いた女性が天皇と見えていますので「桐壷」です。
中上は少女が小鳥(雀)を逃がしており垣根から覗いてるのが源氏で「若紫」です。
中下は蹴鞠をしている中、猫が御簾を開けて女性が姿を現していますので柏木が女三の宮と出会ってしまう「若菜」です。
左上は二人の女性が碁を打っているので「空蝉」。
左下は男達が集まって何やら話をしているのは雨夜の品定め「帚木」でしょうか。

偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)」 柳亭種彦著・歌川国貞画 江戸時代

江戸時代に書かれた「源氏物語」のパロディー小説です。時代を室町時代に移し足利将軍のお家騒動の話に置き換えています。絵をふんだんに入れた読みやすいライトノベルのようです。

現代語訳・漫画「源氏物語」各種

『源氏物語』は明治時代から現在に至るまで、現代語訳が試みられてきました。与謝野晶子、谷崎潤一郎、この後も円地文子・田辺聖子・瀬戸内寂聴・林望などのほかアーサー・ウエイリーが英訳し世界中で読まれています。コミックでも大和和紀「あさきゆめみし」をはじめ「源氏物語~愛と罪と」「はやげん!」「まろ、ん?」などいまだ広がりを見せています。

2、「源氏物語」を辿る

「源氏物語」に紫式部の書いた原本は残っていませんが、平安時代に近い写本や絵巻が残っています。また藤原道長
の記録が載る「大鏡」や、紫式部日記、枕草子など同時代・当事者の記録も残っています。

源氏物語絵巻(複製)

平安時代 十二世紀の国宝「源氏物語絵巻」の複製です。源氏物語のテキストとしても著作当時に最も近い資料の一つで、宮中の様子が分かる絵画資料・最古の源氏絵でもあります。

左から「源氏物語玉の小櫛」江戸時代 寛政十一年、「源註拾遺(源氏拾遺)」江戸時代、「源氏物語湖月抄」江戸時代 延宝元年

「源氏物語湖月抄」は北村季吟(一六二四〜一七〇五)が著した『源氏物語』の注釈書です。タイトルの湖月抄は紫式部が石山寺で琵琶湖に映る月を見て物語を書き始めたという伝説に由来しています。「源註拾遺(源氏拾遺)」は僧侶であった契沖の著作。「源氏物語玉の小櫛」は本居宣長(一七三〇〜一八〇一)が著した『源氏物語』の注釈書です。今までの教訓書的な読み方から、純粋に物語として読まれる契機となったとされます。

「長恨歌」江戸時代
『長恨歌』は、『白氏文集』巻十二に収載されている白居易の長編叙事詩(元和元年(八〇六)成立)で広く知られていました。唐の玄宗皇帝と楊貴妃の愛と悲しみを虚実を織り交ぜ描いています。『源氏物語』も桐壺帝の桐壺更衣への寵愛を玄宗・楊貴妃になぞらえた「桐壺」の帖をはじめとして、『長恨歌』を踏まえたストーリーが展開しています。

3、「源氏物語」の背景

「源氏物語」が書かれたころの平安時代は末法思想の広がりや様々な宗教的背景がありました。また漢文文化をベースにしつつ仮名文学が発展しました。宮廷生活の様子も近い時代の絵巻などに残されています。

左から「猪田経塚出土遺物」、中「霊山寺山頂経塚出土遺物」、右「大宰府・四王寺山出土 古銅経筒」

末法の後、釈迦入滅後五十六億七千万年後にが出生するまで経典を伝えるために、地中に写経を埋納するが全国的に営まれました。

「古今和歌集」「後撰和歌集」「拾遺和歌集」(八代集のうち)、上「内裏切 古今和歌集」伝藤原清輔筆 平安末〜鎌倉時代

これら3つは平安時代に天皇の命により編纂された勅撰集です。特に『古今和歌集』は、貴族の基本的な教養の書として重んじられ、和歌を詠むに際しての手本ともなり、和歌を暗唱することが当時の貴族たちに必須とされたことが『枕草子』や『大鏡』にも記されています。
「内裏切」は 『古今和歌集』の断簡で、天地欄外にさまざまな書き込があるのが特色となっています。伝承筆者の藤原清輔(一一〇四〜七七)は、六条家を代表する歌人です。書写年代は、筆蹟からみて、平安末〜鎌倉時代初頃とみなされます。

「倭漢抄(近衛本和漢朗詠集)」(複製)(原本 国宝 平安時代)

藤原公任(九六六〜一〇四一)撰になる『和漢朗詠集』を色替わり・文様替わりの美しい舶載の唐紙を交用した料紙に染筆した作品です。もとは公任の娘の婚姻を結ぶ際の引き出物として、朗詠に適した和漢の詩文を達筆で知られる藤原行成が清書した物といわれます。

「餓鬼草紙(「古画抜模集」所収)」(原本 国宝 平安時代)

右半分はくつろいだ姿の貴族たちが楽を奏で宴会する様子で、各自の前には料理を小皿に盛った高坏、折敷には盃と木の実をのせた皿が配されています。
左半分は出産の場面です。当時は座って出産する座産で、出産に携わる人は白の装束、室内に散らばる割れた土器は胞衣(後産)を滞りなく済ませるまじない、産所の右隣の部屋には安産祈願ともののけ退散のため、僧による加持や巫女の祈祷が行われ、左隣から顔をのぞかせる人物は悪霊を退散させるために弓の弦を弾いて放す「鳴弦」など、当時の出産の様子がうかがえます。

最後に当時のままの平安装束を展示しています。雅で知的な源氏物語の世界をお楽しみください。