逸品紹介 穐月明作「星夜渡橋」

伊賀市 ミュージアム青山讚頌舎 夏の企画展「月光〜穐月明の夜の景色Ⅱ」展(2025/7/20㈰~9/8㈪)では展示室を暗室にしキャンドルの光りだけで穐月明の作品をご覧いただいています。
月夜を描いた作品が多い中、この「星夜渡橋」はひときわ月夜の静寂で美しい光景を感じます。よく晴れ渡り星の瞬く夜空に満月が昇りその月の光を反射して川が輝いています。背景のうっすらとそびえる山も自然の大きさを感じさせます。

ただ見るだけでも美しいのですが、この絵には実は何重にも意味が隠されている大変コンセプチャルな作品です。まず、満月は仏教では「真如の月」を表し「月が万物を照すように仏の不変の真理が煩悩の迷いを晴らす」となります。橋は「此岸から彼岸へ渡る」橋と考えられ、この場合「煩悩の世界から悟りの世界へ渡る」橋を表します。そこへ僧侶が渡っているのですから、この僧侶は修行して悟りの道を歩む僧侶と言う事になります。
しかし、この川と橋を良く見てみましょう。

この橋にはモデルが有りぴったりと一致する景色が名張の大屋戸潜水橋です。そこを渡る僧侶は寒そうにコートを羽織り不機嫌そうに下駄を鳴らし歩いています。それを前を行く犬が心配そうに振り返り、お供の小僧さんは怒られたのでしょうか少し離れて付いてきています。
つまり、このお坊さんは大変俗っぽいのです。
この絵の隠された面白さは、表向きの絵のテーマの崇高さと実際の僧侶のギャップなのです。
寺で生まれ、寺で絵の修行をしていた穐月明は僧侶たちの現実をよく知っていました。
ここに描かれた僧侶は絵の中の自分の状況をたぶん理解していない事でしょう。